業務に関する情報を幅広く記載するマニュアルは、属人化を防止し、業務品質の均一化に役立つほか、さまざまなメリットがありますが、マニュアルを作成していても、その効果を十分に活かしている企業はどれぐらいあるでしょうか。また、マニュアル作成に取り組めていない企業も少なくありません。
事実、業務マニュアルには、作成の手間を大きく上回るメリットがあり、マニュアルを作成・活用することは、人材の定着や教育コストの削減、そして生産性の向上に大きく寄与します。こちらでは、業務マニュアルの果たす役割やメリット、またデメリットについても解説します。
1. 業務マニュアルとは?
業務マニュアルというと、仕事の流れや注意点を記載した、いわゆる手順書をイメージする人が多いと思いますが、業務マニュアルは単なる手順や業務に必要な情報・知見を共有するためのものだけではなく、業務の品質を均一に保つためにも重要な役割を果たします。
例えば、従業員ごとに知識やスキルの違いがある場合、それが業務品質のばらつきにつながることがあります。しかし、業務マニュアルに手順と重要なポイントを明確に記載することで、そうした知識やスキルの差を埋めるサポートの役割をしたり、さらに新入社員の教育ツールとしても活用できます。
そのため、各従業員が効率よく業務を遂行し、パフォーマンスを十分に発揮するために、企業は必要な情報や知見を体系的かつ網羅的にまとめた業務マニュアルの作成することが不可欠です。具体的には、以下のような領域をカバーすることが求められます。
業務手順
どのようにタスクを実行するか、必要な情報やリソースなど、業務を遂行するための具体的な手順やフロー
役割と責任
誰がどのタスクを担当し、どのような責任を負うかを示す、各業務に関わる役割や責任
業務の目的と目標
業務の意義や達成すべき成果など、各業務の目的や目標
基準と品質管理
業務の品質を確保するための基準やチェックリスト。品質管理の方法や基準に関する情報
トラブルシューティング
業務遂行中に発生する可能性のある問題やトラブルに対する対処方法(問題解決のための手順や連絡先情報も含む)
安全規則やコンプライアンス
業務に関連する安全規則や法的なコンプライアンスに関する情報(安全な業務遂行のための指示や規則を含む)
2. 業務マニュアルで期待される効果やメリット
業務マニュアルを作成・導入することにはさまざまな効果やメリットがあります。直接得られるメリットと、中長期的な利益につながるベネフィットも紹介します。
① 属人化の解消と業務品質の均一化
明確に提示された作業手順で業務を遂行することが出来るため、業務マニュアルを活用することは以下より紹介するメリットに直結します。
・属人化の解消
マニュアルをもとに誰でも業務を対応できるようにすると、業務の属人化を解消できます。例えば、業務内容や手順・対応方法を特定の担当者のみが把握している場合は、担当者の急な不在時にすぐに対応できず、業務が滞ってしまいますが、マニュアル化がされていれば、他の従業員が業務を的確に進めることが可能になります。
また、通常の引継ぎについても、マニュアルがなければ口頭で引き継ぐことになり、引継いだ人だけが手順やコツを知っている状態が続くことで、属人化の要因となります。マニュアルがあることで、それに沿って業務を行う基本ルールや原則となり、属人化が起きにくくなります。
・業務品質の保証
マニュアルによって標準化された手順に従うことで、従業員ごとの作業のプロセスのバラつきが減少し、業務の一貫性が保たれます。例えば新人社員でもベテラン社員と同じ手順で作業を行えるようになるため、仕事やアウトプットの質を担保でき、業務品質が均一化されます。
また、業務品質が均一化されている状態ならば、問題が発生した場合でも原因を特定しやすくなります。業務ごとの役割や範囲が明確ならば、責任の所在も明確になります。結果として、的確な対処をスピーディーに実行することが出来るため、業務品質を高いレベルで担保することにつながります。
② 中長期的な企業の価値につながるベネフィット
マニュアルを活用することは、時間や工数、コスト削減にダイレクトに影響します。また、業務改善や組織強化にも寄与するため、結果として会社全体の業務効率や生産性の改善につながります。
・作業時間の短縮と作業効率の向上
マニュアルから業務に必要な情報やノウハウを得られるため、作業途中に悩んで手が止まってしまったり、担当者に業務内容の確認をしたり、教えてもらったりといった時間の浪費や手間、工数を省くことができます。
その結果、作業時間が減るため、余った時間で別の作業を進めたり、スキルアップや情報収集などにリソースを割いたりとできるため、個人の作業効率の向上につながるだけでなく、ちり積もって中長期的な会社全体の業績改善にもつながります。
・指導時間や教育コスト削減
担当変更で別の社員に引き継ぐ時や、新入社員に指導する時などにマニュアルがあることで、指導や共有の時間と手間が省かれスムーズに業務を引き継ぐことができ、抜け漏れも起きにくくなります。またマニュアルは、誰でも必要な情報を必要なタイミングでアクセスできるため、長期にわたり継続的に従業員の時間や工数の削減につながり、結果として会社とっても利益になります。
さらに、マニュアルがない場合、教える側の能力や教え方の差により、教わる側の業務理解度や成長に影響を及ぼすなど、人材育成に悪影響を与えてしまう可能性がありますが、適切なマニュアルが用意されていれば、漏れやムラなく迅速な業務理解が進み、個々の知識やスキルが安定し、結果として強固な組織形成につながります。
・業務改善促進
業務マニュアルを作成することは、業務の全体像の把握につながり、業務内容やフローを見直す起点にもなります。なぜなら、マニュアルを作成することで、仕事の無駄や重複、非効率・不要な作業などを洗い出すことができるからです。また、まだ発生していないトラブルやエラーのリスクを発見し、未然に防ぐことにもつながります。
マニュアルは一度作成して永遠に使用できるものではなく、新たな問題や失敗が生じた際に随時アップデートするものでもあるため、蓄積されたナレッジや知見により、業務をよりよくしていくサイクルが生まれます。それにより、業務のさらなる品質向上と効率化につながります。
以上のように、業務マニュアルを活用することは業務スピードと品質向上に寄与し、マニュアルを使用する社員、教える側の社員、ともに無駄な時間と工数をカットすることができ、余った時間を別に有効活用することもできるなど、結果として業務効率の改善につながります。
また、業務やフローの見直し改善するきっかけにもなり、さらに、個人の成長や組織の強化を促進させることができるため、幅広く中長期的な企業の発展と生産性向上に寄与することとなります。
3. 業務マニュアル作成で懸念されるデメリット
業務マニュアルの作成・導入は多くのメリットがありますが、マニュアルがあればすべて万全というわけではなく、一部ですがデメリットもあるため注意が必要です。
・マニュアル通りにしか動けなくなる
マニュアル頼りになってしまうと、思考や行動に応用が利かなくなってしまう可能性があります。いわゆる「マニュアル対応」「マニュアル人間」になってしまうと、マニュアルにない業務や、突発的なイレギュラーな問題などに対して、自ら考えて行動できないといったリスクがあります。また、マニュアルが足かせとなり、新たな着想やアイデアなどを生み出すのを阻害してしまう可能性もあります。
こういった懸念には、「マニュアルは常に改良し・アップデートし続けるもの」、「基礎はマニュアルに準じ、応用は各自で考えアレンジするもの」という意識を社内に浸透させることが重要です。
・マニュアル作成自体に時間と工数がかかる
冒頭に、マニュアル作成の手間以上に得られるメリットがある、とお伝えしましたが、限られた人的リソースや時間で日々の業務に追われている中で、業務マニュアルを作成するのは容易ではありません。
業務マニュアルの作成には労力と時間がかかるため、一気に全業務をマニュアルするのではなく、「重要度が高い業務」、「効率が著しく悪いボトルネックの業務」、「特に属人化が進んでしまっている業務」というように優先順位を協議の上、段階的に実行しましょう。
また、マニュアル作成ツールもさまざまな企業から提供されているため、作成の手間や工数を大幅にカットすることが出来ます。目的や領域など自社の状況にあったツールの導入も検討しましょう。
・Confluence
Wikiベースのドキュメント作成機能を持ち、チームでの共同編集が可能な「Confluence」はテンプレが豊富で検索・参照もしやすいので、知見やナレッジの蓄積と共有に適しています。
・Teachme Biz
写真や動画、テキストを組み合わせて簡単にマニュアルを作成・共有できる「Teachme Biz」は、直感的な操作とクラウドベースの管理機能があり、誰でも簡単に利用できます。
・SmartDB
業務プロセスのデジタル化とマニュアル作成をサポートする「SmartDB」は、フォームやワークフローの作成が簡単で、業務の可視化や自動化が可能です。
・Qast
社内Q&Aとナレッジ共有に特化した「Qast」は、質問と回答を蓄積し、Slackなどのツールとも連携できるため、効率的に情報共有ができます。
4. まとめ
会社の業務手順やルールをまとめた業務マニュアルは、業務の効率化や品質保証が可能になり、属人化の解消や生産性向上が期待できます。さらに、マニュアルを作成するという過程にも、業務全体を把握し、見直すというメリットがあり、それによって気づかなかった業務プロセスの不備や欠陥の修正にもつながります。
作成には手間がかかりますが、それ以上の幅広く中長期的なメリットにつながるため、業務の効率化・生産性向上にマニュアル作成を検討しましょう。