従業員のパフォーマンスや業務の実績、生産性が思うように上がらない時、企業は業務改革を行う必要があります。業務改革で注目されている「業務の見える化」ですが、なんとなく理解していても説明まではできない方が多いのではないでしょうか?
こちらの記事では「業務の見える化」とはどういったことを指すのか、なぜ今注目されていて重要なのかについて解説いたします。
1. 「業務の見える化」とは?「業務可視化」との違いは?
「業務の見える化」とは各人の業務が「いつ」「どこで」「誰が」「どのように」「どのレベルで」「何をしているか」といった業務の流れや工数を可視化して、その業務に携わる誰にも客観的で分かりやすく共有することです。
よく「業務可視化」と混同されがちですが、「業務可視化」とは、目標・売上・実績などといった各情報やデータをグラフや表、ダッシュボードなどグラフィカルな形式で表示することを指します。
※「業務可視化」についてはこちらにまとめていますのでご参照ください。
データをグラフなどで見やすくする「業務可視化」に対して、現在見えていない業務全体を把握できるようにフローなどを分かりやすい形で見えるようにするのが「業務の見える化」です。
2. 「業務の見える化」がいま重要な理由とは?
「業務の見える化」が近年重要視されているにはいくつかの要因があります。
- テレワーク導入の浸透
いくつかの要因の中でも特に大きいのは2020年以降、導入が進んだテレワークです。テレワークには多くのメリットがありますが、従来のオフィス勤務では当たり前にできていたことができなくなりました。テレワーク導入によって「業務の見える化」が注目されるようになった理由をこちらでは紹介します。
① コミュニケーションの減少
テレワークでは対面のコミュニケーションが大幅に減少しました。上司と部下という間だけでなく、同僚同士のコミュニケーションも減少することで、オフィス勤務で何気なく共有していたことなども疎かになりがちです。また対面で気づけていたような他者の様子や違和感などに察することもテレワークでは困難になります。
② 生産性の低下
テレワークでは社員が異なる場所で働くため、上司が各従業員の業務内容や進捗を正確に把握しづらくなり、適切なサポートが行えなくなります。また従業員同士もお互いの状況を知ることができず、業務の連携が進まなくなる可能性があります。こういった積み重ねの結果として全体の生産性低下につながってしまいます。
- 政府による働き方改革の推進
日本企業の労働生産性は30年以上にわたりOECD加盟国の中で20位以下と低く、「長時間労働」が生産性低下の要因の一つとされています。また、労働力人口の減少により、各企業は「いかに生産性が高く業務を遂行できるか」が課題となっています。2019年には「働き方改革関連法」も施行され、企業は長時間労働の是正が急務となっています。
- デジタルトランスフォーメーションの一環
多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しており、「業務の見える化」はその重要な要素となっています。デジタルツールを活用してデータを収集・分析し、業務プロセスを最適化することが求められています。
3. 「業務の見える化」ができていないと生じる問題
最近注目を集めている「業務の見える化」ですが、見える化に対して業務改革につながらないのでは?と懐疑的な意見を持つ人も一定数いるのが現実です。しかし、ビジネスを進めていく上で見える化をしないと、以下のように問題を抱えることとなります。
- 問題点の発見ができない
「業務の見える化」をしていないと従業員ごとの仕事の内容やタスクの進捗状況を把握できず、問題が発生してもなかなか気づけません。特にテレワークにおいてはオフィスワークでは気づくことができていた違和感にも気づきにくくなります。
また、問題を発見できても、正確な業務内容や、その時のステータス、問題の要因が不明瞭だと簡単には解決できません。しかも発見が遅れれば遅れるほど問題は大きくなり、重大なトラブルや損失が発生する可能性が高まります。
- 顧客満足度の低下
業務プロセスが見えないことで、顧客からの問い合わせやクレームに迅速かつ適切に対応できなくなります。これにより顧客満足度や信頼が低下する可能性があります。
以上のような問題は、結果として会社の業績や信用などあらゆるマイナスつながるため、「業務の見える化」ができていない状態はリスクがあるといえます。
4. 「業務の見える化」の目的やメリット
「業務の見える化」を企業が実行するのは、前述のリスクを回避するためだけでなく、目的や多くのメリットがあるからです。以下に見える化により企業や従業員が得られるメリットを4つ紹介します。
① 無駄を削減し、生産性と効率を向上させる
業務プロセスを見える化することで無駄やボトルネックを特定し、改善できる点や、無くしても問題のない箇所が分かりやすくなります。例えば、業務の進捗を共有することで遅延やトラブルを早い段階で把握し、上司や同僚が指摘したりフォローできるようになります。特に各自離れた場所で働き、直接業務状況を把握しづらいテレワーク環境下では有効といえます。
また、各自のスケジュールや業務の進め方を見える化することで、「どこに無駄が生じているか」、「何に必要以上に時間がかかっているのか」などが分かるようになり、労働時間の短縮や残業の削減にもつながります。さらに、仕事量や内容を見える化することで、適切な仕事の分配が可能となり、組織全体で業務量の最適化が図れます。結果として、生産性や効率が向上し、働き方の改善が実現します。
このような見える化によって無駄の削減した具体例として、ある企業では、長時間の会議や不必要な承認プロセスを排除し、年間で数百時間の労働時間を削減しました。
また、別のケースでは、見える化の実行で、季節よって仕事量が大幅に変動することを発見し、時期に応じてチームの編成や個人の業務量を事前に調整することで、特定の個人や特定のチーム集中していた残業時間を減少することに成功しました。
② 業務の品質を担保し均一化させることが可能
特定の従業員しか把握していない、属人化した業務内容や業務フローを見える化することにより、誰でも同一の方法で業務ができるようになります。例えば、仕事をする際に手本になるマニュアルがあれば未経験者でも仕事に取り掛かりやすくなります。
仕事の進め方やノウハウを最初から示すことで、試行錯誤する無駄な時間を削減し、失敗のリスクを下げることができます。また、業務のレベルを一定に保つことができるため、最終的には業務の品質も担保することにつながります。
③ 組織の活性化とチーム全体のスキルアップにつながる
「業務の見える化」には従業員同士の連携を促進する効果があり、チームの活性化に繋がります。例えば、業務量が多い従業員を把握することで、同僚がサポートしやすくなります。また、業務の進捗が遅れている部下には上司が相談に乗ることもできます。このように、組織全体の動きが見えることでコミュニケーションが活性化しやすくなります。特に、テレワークでは社員間のコミュニケーションが不足しやすいため、この効果は非常に有効です。
さらに、「業務の見える化」によって連携が進むことで、チーム全体のスキルアップにも繋がります。例えば、新入社員が先輩社員のスケジュールや業務の進め方を参考にして業務を組み立てたり、同僚同士でノウハウを共有したりすることができます。このように、お手本となる知識やノウハウを横展開することで、チーム全体の底上げが期待できます。
④ より適正な評価ができるようになる
業務が属人化している状態では、業務内容に対する適正な評価基準や評価方法が曖昧になりがちです。「業務の見える化」により各従業員の作業内容やプロセス、工数を把握できるようになれば、成果に至るまでの行動や努力も分かるようになります。
その結果、仕事の成果や実績だけでなく、見えない努力も評価に加味でき、より適正な人事評価が行えるようになります。特にテレワークでは頑張りを直接見られないため、仕事のプロセスの見える化が必要になります。
5. まとめ
この記事では、生産性や業務効率の改善を目指す際に「業務の見える化」がなぜ重要視されているのか、そして「業務の見える化」を行わないことで生じるリスクや問題点、実行することで得られるメリットについて解説しました。
テレワークが一般的になり、労働力人口が減少している現在、企業は業務の効率化を求められています。このような状況で「業務の見える化」はますます注目されると考えられます。特に、これまであまり手が加えられてこなかった業務には、まだまだ改善の余地があり、「業務の見える化」は業務改革に大いに役立つでしょう。