新型コロナウイルス感染症や少子高齢化による労働人口不足などによって、経営状況を改善しようと検討する企業が増えてきました。
経営状況を改善するための施策として注目を浴びているのがBPRです。
言葉は聞いたことがあっても、具体的にどのような意味なのか知らない担当者も少なくありません。
また、BPRを実施した事例について知りたい担当者も多いはずです。
そこで本記事では、BPRの基本知識や実施する目的・実施した事例などについて解説します。
1.BPRとは企業全体における業務プロセスの再構築
BPRとは、「Business Process Re-engineering」の略称であり、業務内容や業務フロー・組織の構造など、企業全体における業務プロセスを根本的に見直して再構築することです。
企業にとって非常に大規模な改革となるため、時間がかかりますが、業務の効率化やコストの削減など、さまざまな効果が期待できます。
1-1.BPRが誕生したきっかけや経緯
BPRは、アメリカで誕生しました。
1990年代に、元マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマー氏と、経営コンサルタントのジェイムス・チャンピー氏の2名が不景気な状況を立て直すために提唱した施策がBPRです。
その後、1993年に2人が共同で出版した「リエンジニアリング革命」によって、全世界にBPRという考え方が広まりました。
1-2.業務改善との違いについて
BPRは、業務改善とよく間違われることがあります。
業務改善とは、あくまでも既存の業務プロセスを残したまま、一部分のみを改善することです。
一方のBPRは、業務プロセスそのものを根本的に改善していきます。
改善するという意味ではどちらも同じですが、規模が大きく異なるので、注意しましょう。
2.BPRが現代の日本において注目を浴びるようになった理由
BPRは、1993年に出版された「リエンジニアリング革命」によって、当時の日本でも大きな注目を浴びました。
しかし、当時の日本はバブルが崩壊した直後ということもあり、リストラを助長させてしまうような結果となってしまったのです。
決して成功したとはいえなかったため、それ以降は日本でBPRという言葉が浸透することはほとんどありませんでした。
しかし、現在の日本では、少子高齢化による労働人口不足が問題視されてきています。
また、2020年から大流行した新型コロナウイルス感染症の拡大によって、多くの企業で甚大なる被害を受けました。
その結果、経営環境が一変してしまい、倒産した企業も少なくありません。
経営状況を立て直して不景気な状況から脱却するためにも、企業全体における既存の業務プロセスを根本的に見直して再構築するBPRに再び注目する企業が増えてきたのです。
3.BPRを実施することで得られる3つの効果
BPRを実施することで、以下の3つの効果に期待できます。
- 業務の効率化
- 従業員満足度や顧客満足度の向上
- コストの削減
順番に解説します。
3-1.業務の効率化
BPRは、これまでの業務内容や業務フロー・組織の構造などを根本的に見直して再構築します。
再構築していく段階で、自分たちのボトルネックが見つかるはずです。
ボトルネックを改善することによって、無駄な業務は削減またはカットし、場合によってはアウトソースを活用するなどこれまで以上に業務を効率的に進められます。
3-2.従業員満足度や顧客満足度の向上
BPRを実施するにあたって、新たなサービスやシステムを導入することも珍しくありません。
これにより労働時間が短縮されて生産性の向上につながるわけです。
職場環境が改善されることで従業員のモチベーションが高まり、さらに消費者に喜ばれるような商品やサービスを開発しようという気持ちが芽生えます。
その結果、従業員満足度だけでなく顧客満足の向上にも期待ができます。
3-3.コストの削減
BPRの実施に伴い、サービスやシステムを導入することで、不要な業務を減らして自動化できる業務が増えるため、労働時間の短縮に期待できます。
その結果、残業代や人件費などを減らせるようになります。
もちろん、サービスやシステムを導入する際には初期費用やランニングコストなどがかかりますが、トータルで考えてもコストの削減につながるのです。
4.BPRを実施するための5つのステップ
BPRは、以下の5つのステップで実施することが可能です。
1. 検討:上層部を中心として、目的や目標・対象とする業務範囲などを設定する
2. 分析:ABC分析やBSC分析などを活用して自分たちの状況を分析し、ボトルネックを洗い出す
3. 設計:分析段階で洗い出したボトルネックをどのように改善していくのか、従業員の意見も参考にしながら具体的な戦略を立てる
4. 実施:BPRは時間がかかるため、従業員のモチベーションを維持するためにも短期的な目標を細かく設定しながら慎重に実施していく
5. モニタリング・評価:実施したBPRの内容を基に、「予定通りに進行しているか」「実施している最中に問題は発生していないか」「実施前と実施後でどのような変化があったのか」などをモニタリング・評価する
詳しく知りたい担当者は、以下の記事をご覧ください。
5.BPRの実施事例5選
BPRを実施した企業の事例として、以下の5社をご紹介します。
- 株式会社ネットプロテクションズ|キャノンITソリューションズ株式会社
- 株式会社GABA|キャノン IT ソリューションズ株式会社
- 株式会社日刊スポーツ新聞社|キャノン IT ソリューションズ株式会社
- 一般財団法人住友病院|キャノン IT ソリューションズ株式会社
- 日鉄ケミカル&マテリアル株式会社|キャノン IT ソリューションズ株式会社
BPRを実施したことによって、どのような効果を得ることができたのか、順番に解説します。
5-1.株式会社ネットプロテクションズ|キャノン IT ソリューションズ株式会社
「後払い決済」とも呼ばれているBNPL(Buy Now Pay Later) 決済サービスを提供している株式会社ネットプロテクションズでは、事業の拡大により取引先が増えたことで、既存のシステムでの債権債務の管理が限界を迎えていました。
そこで改善策として、海外でも活用できるIFRS(International Financial Reporting Standards)に対応したシステムを導入しました。
その結果、債権債務における管理の工数が7割ほど削減されて、これまで以上にデータ分析がしやすくなったのです。
参考:株式会社ネットプロテクションズ|キャノンITソリューションズ株式会社
5-2.株式会社GABA|キャノン IT ソリューションズ株式会社
英会話スクールの運営や英会話教材の販売などの事業を展開している株式会社GABAでは、Windowsサーバの更新に伴い、新システムの移行を検討していました。
新たなシステムを導入したことで、インフラ部分におけるアウトソース化やブラックボックスとなっていた人事給与業務が標準化し、日常業務の効率化に成功したのです。
参考:株式会社GABA|キャノンITソリューションズ株式会社
5-3.株式会社日刊スポーツ新聞社|キャノン IT ソリューションズ株式会社
スポーツ新聞の発行やWebメディアの運営を行っている株式会社日刊スポーツ新聞社では、コンテンツ管理システムの老朽化やブラックボックス化を課題としていました。
改善策として、新たなコンテンツ管理システムを導入した結果、情報配信速度がアップし、可視化できるようになったことで、課題点や問題点なども迅速に発見できるようになったのです。
操作も容易になったため、業務スピードも向上し、従業員満足度の向上にもつながっています。
参考:株式会社日刊スポーツ新聞社|キャノンITソリューションズ株式会社
5-4.一般財団法人住友病院|キャノン IT ソリューションズ株式会社
大阪市にある大型病院の一般財団法人住友病院では、人事給与システムの保守切れに伴い、以前よりも機能に優れた新たなシステムの導入を検討していました。
自分たちの希望に沿ったシステムを新たに導入した結果、データの出力作業や修正作業・情報のメンテナンスなどが容易になり、大幅な業務の削減に成功しました。
参考:一般財団法人住友病院|キャノンITソリューションズ株式会社
5-5.日鉄ケミカル&マテリアル株式会社|キャノン IT ソリューションズ株式会社
化学と素材メーカーの両方を担う日鉄ケミカル&マテリアル株式会社では、グループ会社や事業部門において統一したシステム基盤が存在していなかったため、業務の属人化や情報の連携などを課題としていました。
改善策として、業務プロセスを一から見直して新たなシステムを導入した結果、データの一元管理を実現し、情報の可視化に成功しました。
現在では、業務が標準化されて情報の連携もスムーズになったことで、迅速な経営判断へとつながっています。
参考:日鉄ケミカル&マテリアル株式会社|キャノンITソリューションズ株式会社
6.BPRを実施する上でおすすめの3つの手法
BPRを実施する上でおすすめの手法は、以下の3つです。
- ERP
- シェアードサービス
- BPO
順番に解説します。
6-1.ERP
ERPとは、「Enterprise Resources Planning」の略称で、以下の5つに分類されたシステムを統合してユーザーに届けます。
- 会計管理システム
- 販売管理システム
- 在庫購買管理システム
- 生産管理システム
- 人事給与管理システム
ERPは、統合基幹業務システムや基幹システムとも呼ばれており、情報を一元管理できるため、迅速な経営判断や業務の効率化につながります。
ただし、製品によって機能が異なるので、自分たちに合ったERPシステムを選びましょう。
6-2.シェアードサービス
シェアードサービスとは、グループ化している企業の人事業務や総務業務などを 1 ヵ所に集約させる手法です。
1 ヵ所に集約させることで、コストの削減や業務クオリティの向上・工数の削減などに期待できます。
ただし、シェアードサービスはグループ会社を持つ大企業のみが活用できる手法のため、注意しましょう。
6-3.BPO
BPOとは「Business Process Outsourcing」の略称で、専門性の高い一部の業務を外部に委託することです。
BPOを活用することで、人的リソースの有効活用や業務クオリティの向上・コスト削減などのメリットがあります。
ただし、業務に関するノウハウが自社に蓄積されない可能性があるので、注意が必要です。
7.BPRを成功させるために意識すべき3つのポイント
BPRを成功させるためには、以下の3つのポイントを意識しましょう。
- 自分たちの状況をしっかりと把握した上で実施する
- 手法やサービス・ツールについて理解する
- PDCAを回す
一つずつ解説します。
7-1.自分たちの状況をしっかりと把握した上で実施する
自分たちの状況をしっかりと把握しないままBPRを実施してしまうと、途中で新たな課題点が見つかってしまいます。
その結果、スケジュール通りに進まなかったり、途中で方針がブレてしまったりするなどの問題が発生する可能性があるのです。
そのため、必ず自分たちの状況をしっかりと把握した上でBPRを実施しましょう。
7-2.手法やサービス・ツールについて理解する
BPRの実施に伴い、手法やサービス・ツールなどが豊富にあります。
自分たちに合った手法やサービス・ツールを選ばないと、逆に効率が悪くなる可能性があるので、十分に理解を深めた上で選ぶことが重要です。
7-3.PDCAを回す
BPRは、最近になって再び注目を浴びるようになったので、BPRについての経験や知識が乏しい企業も少なくありません。
そのため、BPRを成功させたいのであれば、PDCAを回して少しずつ改善を続けていきましょう。
8.まとめ
本記事では、BPRの基本知識や実施する目的・実施した事例などについて解説しました。
BPRを実施することで、業務の効率化やコストの削減などに期待できます。
BPRを成功させたいのであれば、手法やサービス・ツールなどを理解した上で、PDCAを回すことが重要です。
本記事でご紹介した実際の事例を参考にして、BPRの実施を検討してみましょう。