企業の業務手順やルールをまとめた業務マニュアルは、会社のノウハウが蓄積された財産ともいえる重要なもので、日々の作業・業務の効率化や業務品質の担保、属人化の解消や生産性の向上などさまざまなメリットがあります。
※マニュアルのメリットやデメリットについてはこちらを参照ください。
生産性向上に必須な「業務マニュアル」のメリットとデメリットを解説!
マニュアル作成自体に時間と労力がかかるのはもちろん、マニュアルを十分に活用するためには、誰でも理解しやすい内容・形式である必要があります。こちらの記事ではマニュアルの作成の仕方、作成のコツや、注意点も説明します。
1. 業務マニュアル作成のコツ
- 目的と読み手を明確にする
マニュアルを作成する際に、「誰が使うのか」をしっかりと考えることが重要です。新人とベテランでは、業務に対する理解度が大きく異なるためです。特に、マニュアルを必要とするのは、これから業務内容を学ぶ新人が主な対象となります。一方で、実際にマニュアルを作成するのは、通常、業務に精通しているベテラン社員です。もしベテランが、自分の視点だけでマニュアルを作成すると、専門用語が多すぎたり、説明が不十分になったりすることがあります。
マニュアルは、「業務を全く知らない人が理解できるようにする」という基本的な目的を常に念頭に置いて作成することが大切です。
- 業務の順を追って説明する
業務マニュアルでは、説明の順番が非常に重要になります。一般的に、報告書や提案書などで結論を先に書いたり、重要なポイントを冒頭で説明したりすることがありますが、マニュアルではシンプルに手順を追った構成で説明することで、誰が見ても分かりやすいものになります。
- フォーマットを統一する
「作成した人によってマニュアルの形式が全く異なる」という状況はリスクがあります。というのも、どちらのマニュアルを使うかによって、作業手順や成果物の品質が異なる可能性があるからです。また、単純にフォーマットがマニュアルごとでバラバラでは、読みにくかったり理解しづらかったりとマニュアルの品質にばらつきが出てしまいます。
よいフォーマットがあれば、誰でも、抜けのないマニュアルを作れます。仕事の効率や品質を上げるためにも、マニュアルのフォーマットは統一するのが望ましいのです。
- 検索しやすくする
マニュアルがあっても、知りたいときに該当箇所にすぐ辿れないと意味がありません。マニュアルは初めから順に読むものではなく、使用者が知りたい情報のみ選択するため、できるだけ小見出しをつけ必要な情報にすばやくアクセスできるようにしましょう。また、マニュアル内のつまずきやすい箇所、補足の説明が必要な個所などにはリンクを貼ることで、関連情報に必要なタイミングにアクセスできるようになります。
2. 業務マニュアルの作成手順とポイント
業務マニュアルを作成するには多くの人の時間と労力がかかります。こちらでご紹介する作成手順とポイントを押さえることで、スムーズに効率的に作ることが出来ます。
① マニュアルの目的や作成範囲を明確にする
業務マニュアルを作成する際は、まずその目的と対象範囲を明確に定めることが重要です。
例えば、社員ごとに知識やスキルに差があるので「業務の質を均一化」することや、新人向けの研修やナレッジ共有といった「教育目的」、ミスが多発している業務の「ミスの発生を防ぐ」ためや、工数がかかり残業時間増加につながってしまっている作業の効率化するといった「トラブルに対する対応策」というような目的も考えられます。
次に、マニュアルが対象とする業務の範囲を決めます。業務マニュアルを作成する際に、事前に範囲を明確に決めずに進めてしまうと、必要な業務が漏れてしまったり、不要な部分までマニュアル化してしまったりする恐れがあります。その結果、手戻り作業が増えるだけでなく、運用を開始した後でも担当者に必要な情報が提供されず、期待した効果が得られない可能性があります。
具体的には定めた目的に対して、「どのような基準で」「どこまでカバーするか」といった内容を検討して、どの職務やプロセス、部門に焦点を絞るのか、といったように、具体的にマニュアルでカバーする領域を決めましょう。
② 業務内容と作成手順を整理する
マニュアルは作成していない人が読み手(マニュアル使用者)なので、意味が伝わらないなど迷わせてしまうようでは内容として不十分です。そのために、できる限り具体的に落とすことが重要になります。
具体的にするコツとしては、「5W1H」を満たすように整理することです。「誰に(who)」「いつ(when)」「どこで(where)」「なにを(what)」「理由(why)」「どのように(how)」といった情報を網羅した内容になっているか確認しましょう。
例えば、
「誰がマニュアルを使用するか?」
「いつ、どこで、どんな情報を知りたくて使用するか?」
「なぜマニュアルが必要か?」
「どんなように活用されるか?」
といった形で内容を整理することで、必要な情報が漏れにくくなります。
また、この整理の段階では、業務の始まりから終了までと作業の一通りを念頭に置きながらも、実際の作成は時系列順ではなく、重要なパートから作成しましょう。例えば、セミナーや展示会などといった開催マニュアルを作成する際、準備や設置、撤収ということよりも、開催することそのものが重要です。どのようにセミナーや展示会を運用するかといったメインの業務を整理することで自然とそれ以外のタスクの手順も決まってきます。
③ マニュアルの構成を考える
マニュアルの骨組みに当たる構成を作成する際は、具体的に伝えたい内容が一目でわかるような目次(見出し)を作成の上、組み立てていきましょう。目次を作成することで全体像を把握でき、各パートのつながりもつかみやすくなるため、作成段階で抜け漏れや不要な情報が入るなど、不備を避けることにつながるのはもちろん、マニュアル使用者にとっても理解しやすさにもつながります。
この構成自体に問題があると、その後、いくら分かりやすい文章や画像などで説明しても、良いマニュアルにはならないため、先に策定した目的に沿っているかどうか、また作成範囲とも過不足なく相違がないかをチェックしながら作成を進めましょう。
④ マニュアルの本文を作成する
組み立てた目次に沿って、伝えるべき内容を肉付けする形で、作成しましょう。その際、各業務をどの部署の誰が担当なのか役割を明確にすることが重要です。
また、マニュアルは、単に作業工程を並べただけでは十分に機能しません。作業を効率よく進めるためには、各工程に対する解説や注意事項を明確に記載することが重要です。これにより、トラブルやミスの予防に役立ちます。
さらに、実際に作業で起こりうる問題やイレギュラーな対応も予測して記載しましょう。イレギュラーに発生する事柄だからこそ、対応方法を知っている人が少なく、マニュアルが活躍します。予期せぬ問題が発生した際にも、全員が一貫した対応を取れるように、イレギュラー対応の手順をマニュアルに含めることが重要です。
例えば「過去のトラブル事例」「困った時の対応」「よくある質問」「担当や上長が不在時の対応」「年末年始など長期休暇時の対応」などとしてまとめておけば、マニュアルに載っていないトラブルが発生しても、適切な対処ができるようになります。
なお、イレギュラー対応については、複数の対処法を記載しておくことが望ましいです。業務にはトラブルがつきものであるため、万が一の際に迅速に対応できるよう、準備を整えておきましょう。
ただし、解説や注意事項、イレギュラー対応をあまりにも詳細に書きすぎると、かえって逆効果となることがあります。情報が過剰になればマニュアルが複雑化し、理解しづらいものになってしまう可能性があるから適切な範囲で作成しましょう。
⑤ 図や表、写真や動画を付け加える
文字数が多くなることで、読みづらく伝わりにくいにくいマニュアルになってしまう可能性があるため、理解促進をするために図解することが非常に有効です。図や表、グラフ、フローチャートなどを活用して、パッと見で把握できるように工夫しましょう。また、写真やイラストといった画像や、動画なども活用するのもおすすめです。例えば、管理画面の操作方法などは、実際の手順を映像と音で説明した方が、端的シンプルに伝わります。
3. マニュアル活用・運用における注意点
マニュアルは作成して終わりではなく、適切に運用し、全社に浸透させることで効果が生まれます。こちらではマニュアル運用における注意点を解説します。
- マニュアルの修正と更新を繰り返す
マニュアルは完成後も継続的に見直しをして、必要に応じて改定やブラッシュアップしていくことが必要です。実際活用を開始後に不備や問題を発見した場合や、仕事の内容や流れなどに変更が生じた際に、そのまま使用し続けてしまうようではマニュアルとして機能していない状態となります。古い情報は放置しないで、マニュアルの見直しと最新の情報へのアップデートは状況に応じて定期的に実行しましょう。
- マニュアル運用のルール化
マニュアルの修正と更新を継続的に実施するためには、メンテナンスのルールを設けることが有効です。いつどのようなタイミングで更新するのかといったことをルール化しましょう。確認や改定を実行する「マニュアルの運用担当者」を決めておくなど、体制面も整備しておくことも重要です。
マニュアル運用担当者選定の際は一人ではなく、数名選任することがポイントです。担当が一人では個人の主観が入り込んだりするなど内容に偏りが生じたり、その担当がいないとマニュアルが更新できない、といったことも起こりえるからです。複数名設定することで、そのようなリスクを回避し、さまざまな意見を取り入れられ、内容の漏れや不備も発見しやすくなるなど、スムーズな運用につながります。
- マニュアルの運用の重要ポイント
時間をかけてマニュアルを作成しても、実際に活用がほとんどされていないようでは意味がありません。業務に問題が生じているのはマニュアルに問題があるのか、それとも従業員個人に問題があるのかも分かりにくいため、まずはマニュアルの使用状況を可視化して、どれぐらい活用されているのか把握をしましょう。
マニュアル管理ツールによっては、マニュアル内の特定のページや閲覧ページを可視化でき、誰が、何を、いつ、何回見たかなどといった状況を表やグラフなどで可視化してくれるため、活用状況を確認できます。それによって、従業員がどのコンテンツを求めているかが判明し、改善や新規コンテンツ作成にも役立ちます。
次に、内容を改善する際は、マニュアル利用者へのヒアリングをしましょう。誰が使っても同じ成果が出せるマニュアルを作成するには、多くの従業員が使いやすいと感じるものに仕上げる必要があります。そのために、実際にマニュアルを利用している従業員から意見を集め、使いやすい点や改善が必要な点を把握することが重要です。
業務フローに変更が生じたり、利用状況の可視化や利用者へのヒアリングで課題や不備が判明したりした際に、紹介したプロセスを踏んだ上で、変更点を速やかにマニュアルに反映させましょう。更新後はマニュアルが更新されたことを全社員に共有・周知することが大切です。
基本、ツールやアプリによって、全社員に同時に共有することができます。また、適切な従業員にアクセス権限も設定できるため、情報漏洩も防ぐことができます。
マニュアルを更新する際の注意点として、必ず以前のバージョンも保存しておくということです。これにより、変更点が明確になるだけでなく、万が一過去のバージョンに戻す必要が生じた際にもスムーズに対応できます。特に、現場の業務手順を変更した際に、期待したほどの改善が見られず、以前の方法に戻すことも珍しくありませんので、過去のバージョンにすぐに立ち戻れると、余計な手間をかけることも避けられます。
以上のように、業務マニュアルは作成後も適切に更新・改定をし続けることで、初めてその効果を発揮することが出来るといっても過言ではありません。改定を実行する際は、現行のマニュアルの評価と分析、利用者のニーズを把握することが必要です。
更新・改定後には関係部署、チーム内に最新内容を共有することで、業務マニュアルの効果を最大化することが出来ます。
4. まとめ
業務マニュアルの作成のコツ、作成の手順とポイント、運用における注意点を解説しました。マニュアルには日々の業務の効率化や会社全体の生産性向上と、長期的なメリットにつながるものですが、作成には時間と手間を要するだけでなく、作成しても最新の情報に更新できていないと機能しません。作成時のコツ意識することで効率的にマニュアルを作成でき、また適切に運用をすることで業務品質は向上するため、ご紹介した内容を取り入れてみてください。