残業を減らすこと、長時間労働を改善することは日本の企業にとって今、とても重要な課題となっています。2019年4月より、改正労働基準法が施行されました。改正のポイントは、臨時的な残業であっても上限時間が設置されたことです。また、同年の労働安全衛生法の改正により、管理監督者の労働時間の把握も義務化されました。こういった法改正の背景には、過労死や過労自殺の防止、ワークライフバランスの向上、健康維持といった重要な目的があります。
政府の働き方改革が提唱されて久しいですが、実際はまだまだ残業が減らず、遅くまで仕事をしている人は少なくありません。多くの企業が残業を減らしたいと思っているにもかかわらず、なぜ残業時間の削減はスムーズに進まないのでしょうか。本記事では「残業が減らない原因」から「残業削減を効率的に行うための取り組み」だけでなく、根本的に業務プロセスを見直し、生産性向上までつながる対策法についても解説します。
1. 残業を減らすことが出来ない理由
残業を減らせず長時間労働になってしまう理由はいろいろあります。業種や職種にもよりますが、よく見られる具体的な理由をご紹介します。
① 残業を当然とする環境や残業が評価される企業文化
一部の企業文化では、残業が当たり前とされる風潮があります。このような環境では、従業員が定時に帰ることが難しく、残業が常態化してしまいます。新入社員もその風潮に染まり、結果的に全体の残業時間が増えることになります。
また、残業が多いことが評価される企業文化も、長時間労働を助長する要因です。成果よりも労働時間が重視される環境では、効率的に仕事を終わらせるよりも、長時間働くことが求められます。これにより、無駄な残業が発生し、生産性の低下を招きます。
② 無駄な会議の多さ
日本の企業には無駄な会議が多いといわれています。アジェンダや目的がなく、議題の意思決定がされないような、会議はもちろん無駄といえますが、他にも意外なところにも無駄な会議は潜んでいます。
例えば、一言も発言しない人が多くいる会議や、”念のため”でアサインされた議題に関係の薄いメンバーの参加はその本人にとって無駄といえます。また、本来なら20分で終わる内容でも、会議室を1時間抑えているので、毎回1時間かけたり、または議論終了後に40分近く世間話をするといった場合も無駄といえます。
このような会議により、参加者の業務時間を浪費して残業時間が増加してしまうだけでなく、週次や日次と定期的に開催されることで、ちり積もって莫大な時間の無駄になり、結果会社全体の生産性低下につながってしまいます。
③ 業務の属人化
多くの企業では特定の業務が特定の社員に依存している状況が見受けられます。この業務の属人化は、該当社員がいないと業務が進まない状態を招き、特定のスキルや知識を持つ社員に業務が集中し、その社員が長時間働かざるを得ない状況を生み出します。
属人化が進むと、その社員が業務を抱え込み、他の社員がフォローできないため労働時間が増加します。よくある「優秀な人材に業務が集中してしまう」という事象で、業務が遅延した際の対応もその社員に任され、必然的に残業が増えます。また、個人の知識やスキルに頼り切ることで業務の効率化が進まず、残業が常態化しやすくなります。
また、属人化が進んだ状態で業務プロセスが非効率である場合、無駄な作業が増えてしまいます。例えば、手作業が多く自動化が進んでいない業務や、複数の承認が必要な煩雑な手続きなどが挙げられます。これにより、業務の進行が遅れ、結果として残業につながってしまいます。
④ 目標やタスクの期日があいまい
一見、残業時間との関連性が低いように感じられるかもしれませんが、目標やタスクの期日があいまいである場合、業務の優先順位が不明確となり、結果として長時間労働が発生しやすくなります。
期日が明確でないと、どのタスクを優先するべきかが分からず、重要なタスクが後回しになったり、業務が滞り、最終的には残業で片付けることが増えてしまいます。このような状況では、勤務時間内に業務を終わらせることが難しくなり、残業が常態化につながります。
2. 残業を減らす方法とポイント
長時間労働を改善し、残業を減らすには一つの方法を試すだけではなく、さまざまな角度からのアプローチが効果的です。また残業が減らせない理由はさまざまですので、複数の方法を組み合わせて実践する必要があります。
そのためには、残業時間そのものを減らすのではなく、まず残業につながっている原因を把握することが、根本的な解決の第一歩で、最重要ポイントとなります。
こちらでは、業務のプロセスの見直しや再構成を伴い、残業の原因に対して対策を打つ「抜本的な業務改革をした上で実行できる対策法」を紹介します。
① 把握「業務や残業の実態を把握・管理」
残業要因を特定するためには、「業務の見える化」を進めて現在の業務の詳細を知ることが重要です。
「業務の見える化」の進め方はこちらにもまとめていますので参照ください。
「業務の見える化」の進め方や見える化すべき情報・注意点を解説!
まず、業務進捗の可視化をして、現在の状況を全員で把握しましょう。可視化することで、例えばスケジュールの遅延や問題点など、後の残業を生み出す原因の特定につながります。
一方、現在の残業時間の内訳を可視化することで、どれだけの時間を、どんな業務に費やしているのか把握できます。これにより、特定の部署や個人に過重労働が集中している場合、その原因の解明につながります。
また、業務進捗や残業内容を可視化・把握するだけでなく、時間管理をすることも重要です。これは、上司が管理するのはもちろん、従業員一人ひとりの時間管理に対して意識を持たせ、何に時間がかかってしまっているのか見つめ直すことを習慣化させることで業務の効率化につながり、結果として残業時間削減に寄与します。
こういった取り組みは定期的にフィードバックを行い、より計画的に効率よく業務を進める習慣を身につけさせることが重要です。
② 業務プロセスを見直し業務効率化を進める
前項の「業務の見える化」の実行で把握できた業務の実態をもとに、プロセスを見直し適切な業務分掌を実行することで、業務効率を改善させ残業時間削減につなげます。
業務プロセスの改善(BPR)
「業務の見える化」を進めた後、ボトルネックとなっている箇所を特定し、業務の再設計を行います。例えば、不要なタスクの削除や、実は一気通貫で実行した方がよい作業がバラバラになっていた場合は、統合するなど効率化を図ります。また、ITツールの導入により自動化できる部分を見つけたり、単純で機械的な作業はアウトソーシングするといった判断をすることも効率化につながります。
この取り組みは、単発ではなく、定期的な業務プロセスのレビューを行い、継続的な改善を目指します。
適切なリソース配分
必要な業務に適切な人材を割り当てることは、残業時間削減に直結します。1つ目のステップで把握した業務内容や進捗をもとに、状況を見ながら業務量を適切に分配しましょう。また、業務の優先順位を明確にし、重要な業務から着手することで効率的に進めることができます。このようなリソースの再配分は、特定の社員の過負荷を防ぎ残業時間を削減する、ということだけではなく、会社全体の生産性向上にもつながります。
以上のように、抜本的な業務改革をした上で実行できる対策は残業の原因を見直すため、手間がかかり効果が出るまで時間がかかりますが、残業削減の本質を捉えた対策であり、根本的かつ長期的な対策として有効です。また、業務効率や生産性向上といった、残業削減以外にも寄与するメリットがあります。
3. まとめ
残業削減をテーマに、残業を減らすことが出来ない理由や残業を減らす方法、そのポイントについて解説しました。残業時間を減らす対策をすることで、無駄なタスクや社員の負担を軽減できるだけではなく、業務の効率化や生産性向上に直結します。
しかし、残業時間の削減は、よくある、ノー残業デーや残業の事前申請ルールのような、残業時間そのものをカットするだけの対応で解決する問題ではありません。しっかりと業務プロセスや残業の実態、理由を見直し、根本の問題点を分析する必要があります。この記事で紹介した対策法を参考にして、ぜひ自社で残業削減に向けた取り組みを始めてみましょう。