企業の競争力を維持し、持続可能な成長を実現するためには、効果的なコスト削減が重要です。利益は「売上-コスト」で算出されるので、いくら売上が上がってもコストがかさめば利益は少なくなってしまいます。
そのため、生産性の向上を伴ったコスト削減が求められます。本記事では、コスト削減のための具体的なアプローチとして、3つのカテゴリーの主要なコストに焦点を当て、それぞれの削減対象、削減方法と、そのポイントについて解説します。
1. 企業が削減できるコストの種類
企業が経費削減を行う際に見直したほうが良いコストは、主に3つあります。
- エネルギーコスト
エネルギーコストとは、企業が業務を遂行するために必要なエネルギーにかかる費用のことを指します。具体的には、電力、ガス、石油などの光熱費を指します。エネルギーコストは日々の業務において必要不可欠であるため、見直しを行うことで削減につながります。
実際の対策として「使用していない電気を消す」といった個人単位のものから、「電力会社を見直す」というような会社単位の取り組みも含まれます。
- オフィスコスト
オフィスコストとは賃貸料、設備費用、備品代、印刷代、通信費、消耗品費用、システム利用料、などオフィスで必要な費用を指します。これらの費用は企業の固定費用として大きな割合を占めるため、効果的な管理と削減が重要です。
固定費用のため、常にどうすれば経費を抑えられるかを観点に、取り組むことが重要です。例えば「ペーパーレス化を進め印刷代を削減」、「通信会社の契約を切り替えコストカット」など比較的簡単に行うことができます。
- オペレーションコスト
オペレーションコストとは人件費、福利厚生費、物流コストなど、事業を営む上で発生する費用のことです。特に給与・賞与・社会保険料などの人件費は大きな割合を占め、その人件費には残業代や交通費、接待費も含まれるため、主要3コストの中でも、削減に取り組むと最も高い効果を得られますが、一方で、オペレーションコストの削減はインパクトが大きい分、見直すのにも時間がかかり、さらに容易に削減するのが難しい経費といわれています。
2. 各コストの削減のポイント
こちらでは先に挙げた3つのカテゴリーの主要コストの具体的な削除対象と方法について解説します。
- エネルギーコスト
① 基本的な電気の節約
パソコンやモニター、会議室などの照明や冷暖房機、空気清浄機などの電力は、使用していない時はOFFにするルールを作り、徹底させましょう。日々、業務優先で忘れられがちですが社員一人ひとりの意識が変わり実行することで、ちり積もって不要な電気料金を純粋に削減することにつながります。
② エアコンの設定温度を見直す
エアコンは風量の強さよりも、温めたり冷やしたりすることに電力がよりかかるため、設定温度を1度変えるだけで電気代に大きく影響があるといわれています。注意が必要なのはオフィスの快適さにつながるので、前項の使用していない電力削減のように安易にカットはできません。夏場はクールビズを導入するなど、従業員の不快につながらないレベルで実行しましょう。
③ LED照明を使用する
LED電球は白熱電球の約40倍の寿命があり、消費電力も約86%もカットできます。機器・設備を変更には初期費用が発生しますが、こちらも照明の多く使用している大規模オフィスでは、非常に得られる効果が高くなります。
④ テレワークの導入
水道光熱費はオフィスに人数が多いほど金額が高くなります。テレワークを導入すれば出社する従業員が減るため、水道光熱費の削減が可能です。総務省の調査によると、テレワーク導入により、「オフィスの電力消費量は43%削減可能」と試算されています。
※「テレワーク」についてはこちらにまとめていますのでご参照ください。
テレワーク総括!導入時の準備と最適に運用する際の企業側の注意点を解説
⑤ 電力会社の切り替え
2016年4月から電力の自由化が開始され、電力会社が決まっていない自社ビルの場合は、自社に適したプランを有する電力会社に変更することが可能です。使用量や時間帯に応じて割引が適用される電力会社もあるため、自社の使用状況を確認の上、各会社のプランを比較し切り替えを検討しましょう。
- オフィスコスト
① 印刷代・紙代の節約
消耗品の中でも近年削減の取り組みが進んでいるのがコピー用紙です。コロナ禍によりテレワーク導入が加速し、ペーパーレス化が急速に進みました。ペーパーレス化により直接コストを削減できるだけでなく、機密資料の破棄にかかる費用も減らすこともできます。プリンターのデフォルト設定を白黒印刷、両面印刷にすることも印刷代や紙代の削減につながりますので見直してみましょう。
② 通信費の削減
電話の使用頻度が低い部署であれば、部署や課、グループ単位で1台の電話機で十分かもしれません。内線での通話が多く、外線の利用が少ない場合は、Skypeなどの無料通話アプリの導入を検討するのも良いでしょう。
また、郵送や宅配便で送っている書類やデータについても、メールやオンラインストレージへの移行を検討してみてください。他にも、見積書や請求書もデータ送付で対応できる場合があります。取引先の状況に合わせて、書類のデータ化を進めましょう。
③ 家賃の削減
テレワーク導入が進み、一度にオフィスに出社する人員が減少すれば、広いオフィスは必要がなくなります。自社の出社状況や、現在の契約を確認した上で、賃料の安いオフィスへの移転により、固定費用の削減につながります。
- オペレーションコスト
オペレーションコストの中でも多くを占める人件費の削減は、営業利益の拡大や事業投資といったメリットにつながるため、そのインパクトは非常に大きいです。また、中長期的に見ても、効率的な人件費の管理は企業の持続的な成長に貢献します。しかし、単純に人件費を削減するだけでは、いくつかの問題が生じる可能性があります。
例えば、単純に人員を減らすと、残された従業員に業務が集中し、残業時間の増加や業務負担の増大を招きます。これにより、従業員のモチベーションが低下し、生産性が下がるだけでなく、離職率の上昇といった悪影響も考えられます。
したがって、オペレーションコストを削減する際には、単に費用そのものをカットするのではなく、業務プロセスを見直し、根本的な問題を解決することが重要です。
① 残業代の削減
オペレーションコストの中でも、影響範囲が特に大きい残業代削減は最重要項目です。例えば、会社全体の残業時間が月に1000時間あるとします。これを10%削減するだけで、100時間分の残業代を節約できます。仮に1時間あたりの残業代が2000円だとすると、月に20万円、年間で240万円の削減になります。これが毎月続くと、長期的に見て非常に大きなインパクトをもたらします。
また、会社全体で1ヶ月あたり20万円削除することが出来たら、単純に削除した20万円分だけでなく、残業中の光熱費などのコストや、企業が負担する年金や健康保険税も同時に削減されます。このように残業代は他にも相乗効果を生む削除効果が高いコストです。
無駄な残業を防ぐためには、ノー残業デーなど会社が強制的に残業させないようなルールを作ることで一定の対策はできますが、かえって忙しくなったり、他の日の残業が増えてしまったりと、解決にならない場合もあります。
残業時間を根本的にカットするには、採用コストの対策と同様にまずは「業務の見える化」がポイントになります。業務内容やプロセス、フロー、残業時間を見える化して、長時間労働の要因につながっている無駄やボトルネックとなっている個所を特定し、業務の再設計や再配分を実行しましょう。
大切なのは残業そのものを強制的に削減するのではなく、残業の要因を解消することなので時間がかかりますが、業務効率が向上すれば時間外の仕事が減少し、結果残業削減につながります。
※「残業代削減」についてはこちらにまとめていますのでご参照ください。
残業が起こる原因を把握して、残業時間を減らし生産性を向上させる方法を解説!
② 採用コストの見直し
採用コストとは、新たな人材を採用する際にかかる費用で、企業説明会の開催費用、求人サイトの利用料、求人広告の掲載料などが含まれます。厚生労働省の調査では、正社員の採用コストは平均85.1万円、非正規社員は19.2万円です。
企業説明会の開催を見直したり、求人広告費用や利用する求人サイトを精査したりすることは採用コスト削減につながりますが、そもそもの採用方法を見直すことも検討することが重要です。
例えば、求人サイトでは多くの応募者を集めやすい点が特徴ですが、求人条件に合わない人材から多くの募集が集まるため、利用料金がかかるだけでなく、書類選考や合否連絡など、かなりの手間や時間を取られる場合もあります。また人材紹介会社のほとんどは成果報酬型のため、中途採用の場合、採用した人材の年収から30〜40%の手数料が発生し、採用コストが高額になる場合があります。
他社に掲載料や手数料を支払う従来の採用方式に対して、最近では、採用チャネルの多様化が進んでおり、リファラル採用やダイレクトリクルーティングといった新しい採用手法があり、コストや手間削減につながるため、導入を検討してみましょう。
リファラル採用:
信頼できる社内外の人から自社に適した人材を紹介してもらう方法です。事前に社風や業務内容を理解した候補者を採用できるため、マッチング精度が高く、採用プロセスが簡略化されるため、人事部門の負担も軽減できます。
ダイレクトリクルーティング:
企業の方から直接求職者にアプローチする方法で、自社のことを認知していない層や、求職や転職をする意思をまだ明確にしていない潜在的な層もターゲットにすることができ、求人サイトや人材紹介では出会えなかった人材の発見につながります。
ダイレクトリクルーティングは、定額の利用料のみがかかる場合と成果報酬型の料金体系の場合があるものの、求人媒体や人材紹介会社を介さないため、利用料や成功報酬費(年収の30~40%)がかからず、コストを大幅に削減できます。
求人広告費をはじめとする採用コストは、例を挙げたように採用方法を見直し、削減ことができますが、新規採用をしなければそのコストそのものが不要になるため、そもそも「新規採用が必要な状況かどうか」「過剰採用になっていないか」を見極めることが重要です。
なぜなら、一見労働力不足に見えても、それは業務が属人化して効率化や適切な配分ができていないだけで、「業務の見える化」を実行し、業務の標準化することで現在の人員で十分に運用できる可能性があるからです。このように採用方法を見直すだけでなく、無駄なコストである過剰採用を止めることもポイントとなります。
※「業務の見える化」についてはこちらにまとめていますのでご参照ください。
「業務の見える化」の進め方や見える化すべき情報・注意点を解説!
3. コスト削減をする際の優先順位
企業が削減できるコストは多岐にわたるため、実際にコスト削減をどういった優先順位で進めるかは迷うところですが、「エネルギーコスト」や「オフィスコスト」は、使用頻度を減らし・節約したり、別のものやサービスに切り替え・置き換えなどしたりして削減できるため、比較的すぐに実行ができます。
一方、「オペレーションコスト」の削減については時間がかかり、すぐに利益につながらないため、多くの企業で見逃されがちですが、しっかりと実行することで削除のインパクトも大きく、中長期的な利益をもたらします。手間がかかると後回しにせずに、「業務の見える化」を実行し、業務内容やフローを把握しながら、無駄な業務や重複した作業の見直しに取り掛かりましょう。
4. まとめ
企業経営において使用するさまざまなコストを必要経費とみなし、コスト削減に取り組まない企業も少なくありません。しかし、売上に対するコストの割合が大きいほど、利益は減少し、事業の成長や拡大に支障をきたす可能性があります。
コスト削減は、単なる節約ではなく、BPRと生産性向上の観点から戦略的に取り組むべき課題です。また無駄な支出を抑えることで、次の一手への資金を確保することができます。解説した内容を参考に、ぜひコスト削減に取り組みながら、生産性向上と事業拡大を目指していきましょう。